初めに何をしたらいいか考えたとき私はとにかくその人の今までの人生を知るべきだと思って行動してた



同じ屋根の下で一緒に暮らしていたのに私はその人のことを知ろうともしなかった、そんな経験をしたから



知ろうとしないことは罪で、知らないことは恥だ



病室で色んな話を聞いた



自分の名前がちょっと古臭くて恥ずかしかったこと、色んな所にちょこちょこ稼ぎに行ったこと、顔の毛は常に剃っておくこと、見舞いに来る娘さんからよく怒られること、ご飯のスイッチは必ず入れておくこと、看護婦さんの患者さんへの悪口が丸聞こえなこと、迷惑になるからもうお家には帰れなくてもいいということ



お化粧はとても可愛らしく、ピンクの淡い口紅が似合っていた



ありがたいことに、以前私が見届けられなかった人間が白い結晶に変わる最期まで見届けることもできた



それが一番私には辛かったのだけれど



いつか向き合わなければならないし、また会いに来るという約束が守れなかったのにそれを避けていたら今頃後悔していたと思う



8月8日の朝



元々施術が適当で看護師が患者に転院を勧める医者だったし、麻酔も効き過ぎていて幻覚と幻聴と意識の混濁があり、ナースステーションに隣接する寒すぎる空調の病室で風邪を引いたひいおばあちゃんは痰が絡んで窒息死をした



連絡が来たのは朝6時頃らしいけれど、なぜか私は4時過ぎに目覚めたのでたぶんそうじゃないかと思っているし、親戚一同そう考えている



(かといって私は何も見えないのだけれど何も見えないことがこんなに寂しいとは思わなかった)



もう出先のついでに病院にお見舞いに行くことはないんだと思うと本当に寂しい



悲しいよりも寂しい



お盆だし、ゆっくり夫婦二人でデートを満喫してくれていると嬉しい



そして私たちの黎明